社会参加と社会的支援は、一生を通じて健康と幸福に大いにかかわります。家族と過ごすだけでなく、地域における余暇活動、社会活動、精神的活動に参加することは、高齢者にとってその能力を活かして、尊敬・尊重されていることを実感し、支えとなり思いやりのある関係を維持または築くことができます。

シルバーカレッジのような専門教育機関は、高齢者が定年後の新たな展望と目的を見つける素晴らしい見本となります。神戸市が設立したこのカレッジには、スポーツ、芸術、アウトドア活動、学術研究に関連した多くの定時制課程があります。

ハッピー・アクティブ・タウン神戸(HAT神戸)では、都市の高層居住ビル地域における、高齢者の社会参加の例がみられます。社会的なきっかけとなったのは、その地域の家族のいない高齢者の住まいにおける孤独死の問題でした。
HAT神戸は、高齢者に優しい公的環境の重要な一例で、そこでは地域住民がお互いに気を配っています。家族が近くにいない高齢者にとって、親しみやすい支援ネットワークに参加することは重要です。地域住民は、互いに声をかけあって地域中心地のイベントで協力したり、近所の家を訪問したりしています。

山口安次郎さんは、「健全な百寿者」と言われています。機織りの匠である103歳の老人は、いまだ織機に座り芸術作品を生み出しています。山口安次郎さんは、「健康なのは運が良かったから。心身ともに活動的だったのが良かった」と言います。山口家の人々は、安次郎さんを身近で注意深く見守り、支えとなる関係を築いています。山口安次郎さんの織物の伝統は子供たちに脈々と引き継がれています。

2002年にマーモット博士らによって行われたイギリスにおける老化の主要な研究は、下記のように述べられています:「我々の社会で人々に老化について尋ねると、皆ある見解をもっています。ほとんどの人が、高齢と言えば、精神的および身体的そして高齢者は、「厄介者」であると。実際に、65歳以上の人の少数は、この固定観念に合致しますが、ほとんどはそうではありません。社会における高齢者の健康と社会環境について印象的なのは、それぞれの高齢者像が、このかなり重苦しい固定概念から、経済的にも社会的にも自立し、障害がなく、社会的および文化的なことに興味があり、社会に大きく貢献している、活発な80歳代のイメージにわたるまで多様であるということです」
高齢化が急速な社会では、ボランティア活動、経験や知識の伝承、家族の世話や有給の仕事によって家族を助けることを通して、高齢者はますます重要な役目を果たすようになっています。このような貢献を果たすには、高齢者が健康を存分に実感し、社会が高齢者のニーズに対処できなければなりません。 活力ある高齢化とは、人々の加齢時の生活の質を高めるために、健康状態、参加活動、安全性を最適化する過程です。それは、個人と集団のいずれにもあてはまります。活力ある高齢化では、人々は、生涯を通して身体的、社会的、精神的幸福への可能性を実現し、社会に参加できるようになります。一方で、適切な保護や安全、ケアが必要な時に提供されます。
「活力」という言葉は、単に身体的に活動的であるとか、労働力として働けるという意味だけでなく、社会的、経済的、文化的、精神的、市民的な仕事に参加し続けることを指しています。定年退職した高齢者は、たとえある程度の障害があっても、家族、仲間、地域、国に積極的に貢献し続けることができます。活力ある高齢化は、健康寿命の延伸および加齢と共にすべての人に必要とされる生活の質を向上させることが目的です。
「健康」とは、WHOの健康の定義にあるように、身体的、精神的、社会的幸福を意味します。高齢者が自主性と自立を維持できることが、活力ある高齢化のための政策的枠組みにおける重要な目標です。
同時に、老化は、友人、仕事仲間、隣人、家族との関係の中で起こります。これが、相互依存と世代間の連帯も活力ある高齢化の重要な信条となる理由です。


都市の役割

世界は高齢化する一方で都市化も進んでいます。現在世界の人口の半分以上が都市部に集中しています。これは多くの高齢者が町や都市に住んでいることを意味します。先進諸国の都市部に住む高齢者の割合は、若年層が都市部に住む割合(80%)に匹敵し、同じペースで上昇し続けるでしょう。しかしながら、低所得国家および中所得国家では、都市地域に住む高齢者の数は、1998年の5,600万人から2050年には16倍の約9億800万人に増加すると考えられています。その頃までには、発展途上国における都市部では、高齢者が約4分の1を占めるようになるでしょう。

なぜ高齢者に優しいまち作りをするのか?

高齢者に優しいまち作りは、人口統計学的な高齢化に対応する効果的な政策アプローチです。都市に焦点を当てる理由の1つは、主な都市部の中心が、高齢者により優しい社会に変化するための経済資源および社会資源を有しており、他の地域社会の先がけとなることができるからです。高齢者に優しい地域社会は、すべての年齢層の人々にとって有益なものとなるでしょう。

出典:WHO(2007年)世界的な高齢者に優しいまちガイド

高齢者に優しいまちの特徴とは?

主な特徴は、以下のようにまとめられます:

参加
● 市民的、文化的、教育的、ボランティア活動への参加の多数の機会(シルバーカレッジの例にリンク)
● 利用可能な公共的および個人的交通手段
● バリアフリーで使用可能な屋内および屋外のスペース
● 利用可能な役立つ情報
● 高齢者のプラスのイメージ
健康
● 健康的、社会的、精神的幸福を促進する活動、プログラム、情報
● 社会支援と援助
● 利用できる適切な公共医療サービス
● 積極的余暇および社会化のための場所とプログラム
● 良質な空気/水質
安全と自立
● 適切で利用可能な低価格な住宅
● 利用可能な自宅の安全設計およびその商品
● 危険のない道路と建物
● 運転手と歩行者にとって安全な道路と標識
● 安全で利用可能な安価な公共交通機関
● 介護者のための支援
● 利用可能な商店、銀行、専門的サービス
● 支えとなる近隣の人々
● 虐待と犯罪の犠牲にならないための安全性
● 広報と適切な訓練
● 救急計画と災害復旧
● 適切で利用可能な雇用機会
● 柔軟な業務の実施

個人は何をすることができるか?

おそらく高齢者にとって最も重要な健康に関する唯一のメッセージは、身体活動を中等度のレベルまで高める、または維持することです。老化と共に現れる身体活動の障害と、それに伴う運動不足には類似点があります。長年の食事が関連する疾患を減らす予防措置は、人生の早い段階から始めるべきですが、たとえ高齢期に始めたとしても決して遅過ぎることはありません。生活様式の積極的な変更は、年齢に関係なく有益なことです。

回復力のある高齢者に優しいまち作り

理想をいえば、高齢者に優しいまちを適切な開発政策を通して実現させることは可能です。この開発政策には、高齢者のニーズに応える措置を含むすべての新規の開発プロジェクトを確実にする政策を導入する地域の機関が必要です。その結果、長い期間をかけて都市は発展し、増え続ける高齢者人口のニーズをより反映できるようになります。

しかし、大規模な再開発が必要な事例もあり、これは自然災害によることが多く、阪神-淡路大震災後、神戸市が経験したものが例として挙げられます。

1995年1月17日火曜日午前5時46分、神戸市を襲った地震は、甚大な被害をもたらしました。その地震による死亡者数は6,437人、負傷者数は4万3,792人でした。約51万軒の建物が損壊または倒壊しました。この地震による経済的損失は、9兆9268億円(約10兆円または約1000億米ドル)に達しました。

地震の犠牲者となった多くの高齢者や障害者は昔ながらの家屋に住んでいました。生存者は家を建て替えることができなかったので、公共住宅に転居するしかありませんでした。これは地方自治体にとって大きな課題であり、2004年3月には1万6,000戸の災害復興住宅が神戸市にありました(そのうち1万500戸は市営住宅)。

2006年4月までに、この新しい居住設備に住む全世帯に対する高齢者世帯の割合が48%に達しました。そのうち、単身の高齢者の世帯が41.5%を数えました。地震発生5年後の調査成績(Ii、2001年)によれば、新しい地域の住民の約30%が、「隣人との社会的な接触がない」、「誰もアドバイスを受けに行かない」、「楽しみがない」と回答しました。また、外出は「食料品の買い物だけ」と、「病院に行くため」と回答しました。

別の調査では、長田区の高層複合住宅において、65歳以上の高齢者が居住者の70.8%を数えました。神戸大学によって実施された調査(Shiozaki、2002年)によれば、隣人とつき合いがあると回答した割合は、地震発生前と比べて4分の1に激減しました(地震発生前:50%、仮設住宅に移った時:30.3%、恒久住宅に転居した時:12.5%)。

震災9年後における災害復興用の公共住宅での孤独死の数は、251人に達しました。これは、仮設住宅での孤独死の数233人を超えていました。この中で、2つの大きな特徴が認められました。第1に、初老の男性(55~64歳)が、犠牲者の中で最も高い割合を示したことです。第2に、アルコール関連の問題が主な死亡原因であったことでした。

神戸地震からの復興による経験が、ハッピー・アクティブ・タウンの歴史でも例証されているように、より良い再建は簡単ではないことを明らかな実例として示しています。課題として、インフラ、サービス、住居の再構築があげられますが、それとは別に同じくらい重要な課題は、いかに地域社会の一体感と帰属意識を再構築するかということです。これにはかなりの長い時間が必要です。

文献:
Minami H, et al. (2006), A Scoping Paper: Social Determinants of Health in Hyogo Prefecture and Kobe City, commissioned by the WHO Kobe Centre.

Ii, K., Kawauchi, K., Kawamura, M.(2001).Long-term support for victims after the Great Hanshin-Awaji Earthquake, CNAS Hyogo Bulletin Vol.8, 87-100.

Shiozaki, K., Nishimoto, E.(2002). One hundred lessons form the Great Hanshin-Awaji Earthquake, Creates Kamogawa.

リンク:

WHO健全な高齢化(ヨーロッパ地域)(英語)

WHOヨーロッパ:健全な高齢化:政策的枠組み(英語)

WHO – 高齢者に優しい町イニシアチブ(英語)

WHO 健全な都市化(英語)

シルバーカレッジ

いなみ野学園

UNEP – 健全な町 HABITAT 地域 21イニシアチブ